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島崎信のモノローグ Vol.3 最初に買うなら?

2016/12/12

Shimazaki Makoto島崎信のモノローグ

北欧デザインの第一人者として知られる島崎信先生。お聞きするお話には、いつも豊かに暮らすヒントがあふれています。自分たちだけに留めるのはもったいなくて、まとめました。

  

Vol.3
最初に買うなら?

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島崎信(しまざき まこと)
東京都生まれ。武蔵野美術大学名誉教授。東京芸術大学卒業後、デンマーク王立芸術大学建築科修了。日本における北欧デザインの先駆者であり第一人者。インテリア、家具を中心に、北欧のデザイン自体はもちろん、暮らし方やその根底にある考え方を伝えてきた。日本のデザイン全般を黎明期から見続け、その見識を活かしたビジネス面での実績も多数有する。著書、講演の実績多数。現在も、和太鼓、民藝、意匠権問題、そしてインターネット…など、関わる領域を進行形で増やしながら複数のプロジェクトを推進中。
 
木下
家具もインテリアも初心者のタブルームスタッフ。
 

木下:前回のお話でセンスの磨き方には経験と教養とチャレンジが必要とわかりました。第一歩として何か買ってみようという意欲が出てきたのですが何からがよいですかね?

 
島崎:家具を買ってみたいのならまずは椅子じゃないかな。高いものじゃなくてもいいんだよ。いろいろ座り比べてみて、これなら買ってみようと思うものを探してみるとよいよ。

それでね、実際使い始めてみると長く座るとお尻が痛いなど後で気が付いたりするわけ。そうしたら座布団の引くなど工夫すればよい。体感から学ぶことは多いよ。椅子は毎日使うからね。

そして数か月してから見直してみよう。あれだけ気に入って買ったのに落ち着かないなどの事があるかもしれない。

自分の理想形が見えてきた時にどうするかヒントは自分だけの判断だけではなくて他人の判断を参考にしてみる。トレンドではなくてね。長続きしているものを参考にする。俗にいうロングセラー商品だね。

昔からの人々の支持を受けている、作り続けられているものをみてみる。そういうものは続いているだけの何かある。

時代を超えて本質的にいいものと言えるものがあるかもしれない。絵画の世界だと100年の年月を超えて愛されているものってあるじゃない。モジリアー二なんて生きているときには売れなかったけど今は大変価値があるものになっている。

椅子も50年以上愛されているモデルがあるんだよ。身近な椅子だと「Yチェア」はまさにそれ。色んなカフェやレストランで見ることもあると思う。

ウェグナーによってデザインされカール・ハンセン社で作られて1950年に販売されはじめてね、背中の木部がYの字になっているからYチェアと愛着を込めて呼ばれているんだよ。

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Yチェアの愛称で呼ばれるカール・ハンセン&サン社の「CH24」。
木下:あーー!!見たことあります。よく行くカフェで使われてます。

島崎:当時は主流であった手仕事の良さを重視するスタイルと量産化を重視するスタイルが二極化を始めたタイミングでね。大量に輸出が可能だった量産化メーカーが軍配を上げ始めていた時代。 

ウェグナーはその時ちょうどポピュラーな椅子を生み出せないか模索していてね、彼はそういった手仕事を大切にするデザインと量産化するデザインの使い分けがうまかったんだよ。

Yチェアの原型はウェグナーが中国・明時代の椅子「圏椅(クアン・イ)」から発想を得て生まれた「チャイニーズチェア」をさらに本人がリ・デザインしたものでね、立体感と柔らかみのあるデザインを残しつつ、量産化を念頭に置いたシンプリシティの完成品になっている。

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チャイニーズチェア。現在はPP mobler社で製造されています。

実は当時僕はデンマークでウェグナーと会っていて勉強のため仕上げ前の椅子をもらって自分でワックスがけをしたことがあったんだ。

その椅子は帰国後20年間毎日愛用していたんだけどおそらく日本へ最初に持ち込まれたYチェアだったろうね。

日本で販売が始まったのは1962年頃から、今日まで売れ続け今でも中断していることもない。日本人がとても愛してきた椅子といえるだろう。

1脚の椅子でそんなに売られてきているものはなかなかないよ。

木下:先生のお部屋にあるこの椅子がそうなんですね…今でもしっかり座れるってすごいな…日本の和の空間にも合いそう! 66年前にデザインされたなんて感慨深い。

島崎:66年で驚いてちゃいけないよ。もっと長くロングセラーになっている椅子もあるよ。約200年のロングセラー。

木下:え? そんなに!?

島崎:1800年代、日本は江戸時代だね。ヨーロッパはハプスブルグ王朝がオーストリア、ハンガリー、チェコ、ユーゴスラビアなどあそこら辺が大きな一つの国だった時代でね。

木下:マリーアントワネットの時代くらいですね。

そうそう。木を蒸して曲げて作る椅子でカフェチェアと呼ばれるアイテムで、
THONET(トーネット)の「14番」という椅子はね1859年に作られ始めて今日なお途切れることなく世界のどこかで作り続けられ売られ続け市場に出ているんだよ。

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THONET No.14

プロダクトデザインの歴史の本をみると一番最初のグッドデザインとして紹介されることが多い。

この椅子はね座り心地だけでなく当時は構造、開発の新しさ、強度…いろんな角度から見ても画期的だった。とりわけ人が長い時間を過ごす食事の椅子として、とても愛されているんだよ。家庭だけでなく、カフェでも使える、丈夫で軽くてしかも修理も効く椅子だからね。本当によくできている。

木下:愛されていたかもしれないけど、ちょっと私用には古臭いかなぁ…。

島崎:ははは、そうかもしれないね。

でもね、まぎれもなくこの椅子は200年作られているんだよ。自分の中にある感性以外に色んな人の審判を乗り越え残ってきたものの真実から学び吸収することもいいと思う。

これがロングセラーな理由を探ると思って身辺で使ってみて、理解するお手本にしてみてもいいかもね。すぐに買わなくてもいいんだよ。

木下:確かにその二つの椅子なら使っているお店知ってます。そこで試してみれますね! どんな経年変化をするかもわかるし。

島崎:そうそう、そうやって始まっていくんだよ。美術館で歴史のある絵を見に行くだろう。
同じように200年も続いているものを身近に置いて感じてみるのも一つチャレンジ。

木下:そんな風に椅子のこと考えたことなかったです。おもしろいですね! THONETかぁ、もっと知りたくなりました!

島崎:じゃあ、次回はもう少しTHONETの話を続けるかね。

※次回は、「THONET(トーネット)」についてお話しいただく予定です

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