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島崎信のモノローグ Vol.4 THONET(トーネット)の成功の秘訣って?

2017/08/22

Shimazaki Makoto島崎信のモノローグ

北欧デザインの第一人者として知られる島崎信先生。お聞きするお話には、いつも豊かに暮らすヒントがあふれています。自分たちだけに留めるのはもったいなくて、まとめました。

  

Vol.4
THONET(トーネット)の成功の秘訣って?

Shimazaki-Makoto_Vol4_001

島崎信(しまざき まこと)
東京都生まれ。武蔵野美術大学名誉教授。東京芸術大学卒業後、デンマーク王立芸術大学建築科修了。日本における北欧デザインの先駆者であり第一人者。インテリア、家具を中心に、北欧のデザイン自体はもちろん、暮らし方やその根底にある考え方を伝えてきた。日本のデザイン全般を黎明期から見続け、その見識を活かしたビジネス面での実績も多数有する。著書、講演の実績多数。現在も、和太鼓、民藝、意匠権問題、そしてインターネット…など、関わる領域を進行形で増やしながら複数のプロジェクトを推進中。
 
木下
家具もインテリアも初心者のタブルームスタッフ。
 

木下:前回の続きですが、100年以上作り使い続けているロングセラーの椅子を生み出したTHONET(トーネット)の成功の秘訣ってなんですか?

 
島崎:こないだはTHONETの「14番」の椅子を紹介したけど、成功の秘訣を知ってもらうために少し時代背景から話そうか。

THONETが設立されたのは1819年で、14番が生まれた時代は19世紀の半ばの1859年。前の回で少し触れたけど、ヨーロッパは産業革命が起きて蒸気機関車が走り、急速な経済発展とともに町に労働者が集まってあふれるようになった。合わせてハプスブルグ家の影響も手伝ってウィーンの芸術文化が広まり、ファッションやインテリアが華やかで賑やかな時代だったんだよ。

ちなみに木下くんはよくカフェなんか行くかい?

木下:はい、スターバックスはじめよく行きます。

島崎:そのカフェ文化が生まれたのもこの時代だった。アーテイストや労働者があふれ、狭い住宅に住んでいた彼らは家の外で過ごせる場所、情報交換や集まる場所を求めるようになったんだよ。

そこで現れたのがカフェ。イギリスのパブも同じ性質のものだった。人が増え、店が増え、丈夫で手に入れやすい家具の需要が高まったのもこの頃。

これまでは家具職人がいて、一つ一つアイテムをフルオーダーに近い状態で作っていたのだけれど、大量生産の必要性に目をつけて真剣に取り組んだのがTHONETだった。

今までオーダーで作っていた家具を手の届きやすい既製品として多量生産する。でも変わらず丈夫で、座り心地がよく、長く使えるものでなくては売れるわけがない。そして長く使っていれば、汚れたり痛んだりするだろうけど、その時に修理がしやすいものを求める風潮が世の中で強まっていることをTHONETは感じていたんだろう。

木下:わがままてんこ盛りですね…。

島崎:ははは、そうだろう。でもTHONETは課題の一つ一つを新しい技術を発明して解決していったんだよ。例えば丈夫さについて。

木下くんは身近で使っている椅子は何で出来ている?

木下:プラスチック、木材、スチールといろいろですね。

島崎:そう、今は色んな素材があるけど、当時は木しかなかったと言っても過言じゃない時代。木をカーブのある椅子の形にするために、板から切り出す時に木目に対して直角方向に切ってしまったりしていた。そうすると強度は下がってしまうことがわかっていた。そこで彼らは実験を重ね、長く細い木を蒸して曲げる技術を開発した。木目が分断されないことで自然本来の強度を保つことに成功したんだよ。これは画期的なイノベーションであったことは間違いない。当時特許を取った技術でもあるんだ。

他にもデザインと生産ラインも画期的だった。14番は籐を張った座面含め、たった6つのパーツで出来ている。この組み立て方も特許を取ったんだよ。そして作ったパーツを仮組みをし、検品してまたバラしたままの状態でコンパクトに運送できるように工夫した。なんと1立方メートルの箱に36脚分の椅子のパーツが入ったんだよ。

木下:そんなに! 組み立てられた椅子であればどんなに工夫しても6脚程度が限界ですよね。しかも日本は江戸時代で椅子もない時代に、特許制度があったことに驚きます。

島崎:驚くだろう。そのパーツを入れた箱をニューヨーク、パリ、ロンドンの組み立て工場を持った支店に送った。そこで組み直して商品化して販売して…と、とても効率化されていたんだ。

技術力と特許に守られながら、曲げ木の素晴らしいデザインを何千種類と作って40年の間に世界最大の家具の会社になったというわけだ。

木下:今でいうグローバル企業ですね。

島崎:THONETは21世紀の企業の姿勢にも通じるスタイルを200年も前に確立していたんだ。すごいよね。

発明して、自分たちの技術を守るために特許を取って、たくさんの商品を生み出し、工場の生産方法を効率化し、国際的な分業を実施した。これは、ものを作る会社として手本になるような会社だよね。

一代で会社を大きくしていたMichael Thonet(ミヒャエル・トーネット)には、5人の息子がいて、それぞれがデザイン、技術、営業、経理・総務の分野で能力を発揮しファミリー企業でありながら大変大きくなったんだ。

時間が経つにつれ特許が切れ競争会社もいっぱいできたので、新しいデザインを求めて世界的なコンペ(募集)をしたこともあったんだよ。とにかく何でもチャレンジ。でもやってみたらTHONETが40年間に開発してきた物以上に素晴らしいものがなかったらしくその1回でコンペは終了したらしい。それくらい練りこまれたデザインを世に出していたんだね。

実際THONETの椅子は曲線も直線もあるので洋風和風の空間で使っても違和感がない。これは永遠のモダンとしてロングセラー商品として続いてゆくだろう。古めかしいとか野暮ったいと思っているかもしれないけど、150年も時代を超えて愛されているということは何かあると会社のストーリー踏まえて思わないかい?

とは言えお客様は厳しいからね。軽くて丈夫で飽きのこないデザインで、長く使える仕掛けがあるからコストパフォーマンスもよい。そういったものでないと100年以上は愛されないね。そこに真摯に向き合っていたブランドの一つがTHONETというわけだよ。

木下:ロングセラー商品は一夜にしてできたわけでないということがわかりました。長く愛される背景には歴史ありですね。
 
ちなみに、もう少し新しいものでロングセラーはないんですか?

島崎:60年のロングセラーについて話そうか。

木下:60年! 十分長いですね! でも知りたいです。

島崎:じゃあ最近は「北欧風」なんて言葉も定着してきたことだし、デンマークの協同組合から生まれた「FDB」の椅子についてこの次に話をしよう。

※次回は、「FDB」についてお話しいただく予定です

Drawing:Takahiro Nagahama