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ナガオカケンメイさんインタビュー「等身大の生活に合う家具を見極めるリアルな時代」

2017/02/13

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ひとつくらいならギリギリできるよくできた椅子

D&DEPARTMENT創設者、グラフィックデザイナー、ロングライフデザイン活動家、大学教授…さまざま肩書を持ち多方面で活躍するナガオカケンメイさん。MARUNI60(マルニ60)のプロデューサーでもあり、全国のD&DEPARTMENTでマルニ60を売る販売者であり、また、自宅でマルニ60のオークフレームチェアを使うオーナーでもあります。

2017年2月、マルニ60からはナガオカケンメイさんがセレクトする限定品が発売されます。マルニ60が新たな動きを見せるこのタイミングで、生みの親であるナガオカさんに改めてマルニ60について、そして話は転がり「限定品をつくること」「近年の家具の選ばれ方」についてお伺いしました。

■ナガオカさんプロデュースで2006年に誕生した「マルニ60」ですが、数ある家具メーカーの中でなぜマルニ木工だったのでしょうか?

ナガオカケンメイ:日本の1960年代って、あらゆるメーカーが日本のためにものをつくっていました。マルニ木工は、広島を代表する家具メーカーでありながら日本のために革新的にデザインをしていった。特に「工芸の工業化」っていうテーマを掲げ、手仕事でありながらも量産をしていくというのが日本の産業の未来を予見してるっていうか、その時点で好きになっちゃったんですよ。

あとはマーケティングをしてものづくりをしていない。自分たちがいいなと思った形を社内でちゃんとつくられている発想のオリジナリティがすごい好きです。柔軟性がある会社で「マルニさんだったらお願いしたらやってくれるかな」みたいなところがあると思うんです。

大企業になればなるほどなんとなくみんなが気に入る、無難で合理的なものになっちゃうんですけど、マルニさんが目指しているマーケットの大きさっていうのがあって、そこが好きなんですよ。「誰にでも」って言ってないところが。

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■マルニ60のファーストプロダクトは「オークフレームチェア」でした。どうしてあの製品を選ばれたのでしょうか?

ナガオカケンメイ:あの「傾斜角」で選んだところはありますね。傾斜がついたものだと「何もしない」っていうか、お客さんが来てぐだーっと座って対話する。直角に近いものは、勉強もできるし、ご飯も食べられるし、がんばったらちょっとのんびりできる。オークフレームチェアは座面も背も傾斜がついているので、ご飯を食べたり、ものを書いたりとかできないんですよね。「なんでもはできない椅子」なんです。すごく用途が限られるんです。

ひとつくらいならギリギリなんかできる。なんかこう、本読みながらお湯割りの焼酎を飲んで置くぐらいのことはできるんです。そういう用途が見えたんで、「ああー、いいな」って。家で長時間座る椅子として、オークフレームチェアはすごくよくできてる椅子なんです。

なので売る立場に立つとちょっと難しいんです。今は多用途に使えることが求められるので。僕個人の場合は用途がひとつ、「だらっとする」って用途しかなかったんでもうぴったり。
 
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ご自宅でもマルニ60のオークフレームチェアをお使いなんですよね。
 
ナガオカケンメイ:僕は出張が多いので、家にいる時間がすごい短いんですよね。そうなると、その時間に使うものがすごい重要なんです。座る椅子はマルニ60の椅子とYチェアの2種類しかないんですけど、このふたつにほとんど座っていて。くつろぐ椅子と食べる椅子です。

ぶっちゃけデザインとかどうでもよくて、座り心地と、つくっている企業姿勢みたいなものに尽きます。座り心地がいいのはもちろんですけど、企業姿勢の悪い椅子に座っていたら気持ち悪くなっちゃうし。そうやってすごく厳選して選んだんですよ。

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■マルニ60の限定商品として、ナガオカさんが生地をセレクトされた特別張地仕様のスタッキングスツールが発売されます。マルニ木工の廃番生地の中から、この6種類を選ばれた理由を教えてください。

ナガオカケンメイ:僕の好き嫌いですね。この張地を張ったスツールだったら自分の家に置きたいなという。あと、この張地だったらマルニさんの家具のラインナップに入れてもいいかなと。今の時代こういう布でしょ、みたいな選び方はしていないんですよ。

「個人的にはあんまり好きじゃないんですけど」みたいなこと言いながら提案する人がいるんです。その言い方が好きじゃなくて。「これは個人的にも好きだし、提案としてもいい」でないと。

■今回、限定品の第1弾コラボレーションがナガオカさんとでした。ナガオカさんが作られ一度完成したマルニ60の世界観はありながら、限定モデルを作るということについてどう思われますか?

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ファッションブランド・minä perhonen(ミナ ペルホネン)が開発したファブリック「dop -tambourine-」をまとったマルニ60の新作チェア。

ナガオカケンメイ:ロングライフな商品ってある程度人の目にさらされない限り、世の中で知ってる人がどんどん年をとっていっててやがていなくなっちゃいます。そんな中で新しい人たちにその存在、変わらない存在を伝え続けるためには、なにか新しいことをしないといけない。

かといって、すばらしい完成されたデザインをいちいちいじるわけにいかない。売上を上げるためではなく、認知し続けてもらうための手段はやっていかないといけないと思います。

今回みたいにライフストックっていうか、使っていない張地を使って何かするというのもひとつのテクニック。ミナ ペルホネンのタンバリンなんかも、皆川さんの張地が定番の椅子に張られ、最終的には日本の産地のものすごく手の込んだ技術が継続するっていうストーリーになっています。それはやっぱりいいなあと。

もともと僕がマルニさんを知ったのは「next maruni」っていうプロジェクト(「日本の美意識」をテーマに世界的なデザイナーが競作したプロジェクト)を自分の小冊子で取材したところから。そういうものづくりに対する新しいアクションを起こす会社であってほしいなと思うし、そういう会社だと思うんです。

■ナガオカさんのお店「D&DEPARTMENT」でのマルニ60はいかがですか?

ナガオカケンメイ:マルニ60は、オークフレームのノックダウン式なので、引越しもしやすく、生活の変化に合わせて組み替えられる。このくらいの価格帯で家具を選ぶって相当難しいんですよ。みんなわからないので大型のホームセンターみたいなところで家具を買っちゃったりすると思うんですけど。マルニ60は、メーカーのストーリーがありながら、あの価格帯でちゃんとしててロングライフ。すごいよくできてる椅子なんです。

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■最近の家具の買われ方について感じることございますか?

ナガオカケンメイ:今うちの買い取りすごいですよ。2000年の開業当時、こういう椅子が集まってきたらいいなって思っていた名だたる椅子が買い取りに持ち込まれます。

2000年ってやっぱりそういう家具がどんどん売れてった時代で、今、そういう家具がどんどん手放されて、平気でほんとにペリアンしかりコルビュジェしかり、ああいう椅子がどんどん引き取られてるんです。

シンボルとして買ったけれど、実は座ってないとか、使ってないとか。そういうことだったんだと思うんですけど。ベンチャー企業が起ち上げたときにまとめてぼーんと応接用に買うけど、会社そのものが潰れちゃって引き取るとか。今いちばんあるんじゃないですかね。

有名な椅子ではあるけど、じゃあ自分の生活に合うかっていうとまた別で。日本のメーカーの椅子、家具ってやっぱり日本の風土に合ってるし、家で靴を脱ぐ生活みたいなところにも合わせたりとか。

海外への憧れとしてすごく形が奇抜なものが一時期買われたけど、自分の家のなかで等身大の生活に合わないんでしょうね、きっと。そういう意味でYチェアとかすごいバランスがいい。それの見極めをしてもいいリアルな時代なんじゃないですかね。

MARUNI60(マルニ60) × タブルーム特設ページ

ナガオカケンメイ
デザイン活動家・1965年北海道室蘭生まれ。
1990年、日本デザインセンター入社。原デザイン研究所設立に参加。
2000年、東京世田谷に、ロングライフデザインをテーマとしたストア「D&DEPARTMENT」を開始。
2002年より「60VISION」(ロクマルビジョン)を発案し、60年代の廃番商品をリ・ブランディングするプロジェクトを進行中。
2003年度グッドデザイン賞川崎和男審査委員長特別賞を受賞。日本のデザインを正しく購入できるストアインフラをイメージした「NIPPON PROJECT」を47都道府県に展開中。
2009年より旅行文化誌『d design travel』を刊行。日本初の47都道府県をテーマとしたデザインミュージアム「d47 museum」館長。
2013年毎日デザイン賞受賞。武蔵野美術大学客員教授。京都造形芸術大学教授。
Writing・Edit:塩見直輔
Photo:Kahori Kurihara

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