「だらしない使い方がセンスがいい」MaKeTデザイナー・谷尻誠(建築家)インタビュー
2013/09/19
欲しい家具はあるけど自分らしい家具はなかった
今、最も注目を集める建築家の1人、谷尻誠。彼が設計し2013年8月に発表した新しい家具シリーズ・MaKeT(マケット)は、届く材料を使って購入者がDIYでつくり上げるという新しい形のデザイン家具でした。
▽建築家・谷尻誠監修、”自分でつくる”デザイン家具「MaKeT」デビュー
MaKeTが生まれた経緯について谷尻誠さん本人にインタビュー。「家具」と「DIY」について頭の中を伺いました。
■MaKeTの家具はもともと引越しされたご自宅用だったと伺いました。家具を買わずにご自身でつくられたのはなぜ?
谷尻誠 家具屋さんを見て回ったのですが「いいもの過ぎて買えない」と感じたんですね。欲しいものはたくさんあるんです。ジャン・プルーヴェとか好きなんで「いいな」と思うんですが、「ちょっと高すぎるな」とか「自分らしさがどこにもないな」と思ったんですよ。結局選ぶだけじゃないですか。建築家の家に行ってデザイナーズ家具が揃ったバキバキの部屋だとなんかダサいなって思ったんです。
■家具だけでなく身の回りのすべてのものについてもそういう選ばれ方をされているんですか?
谷尻誠 だんだんそうなっていっている気がしますね。例えば洋服はつくれないですけど、洋服を買うときも自分なりに使い方を考えます。ストールを巻くことが多いんですが、最近はシャツを首に巻くようになったんですよ。シャツって首に巻いたらストールになるんです。で、寒くなったらすぐ着れる。シャツ1枚あればいいって発見があったときに「あ、これってなんかすごくいいな、自分らしさにもなるな」と思ったんです。
谷尻さんとともにMaKeTを運営するCROSS BORDERSのオフィスにて。
みんなだらしない。だらしない使い方がセンスがいい
■もともとはご自身のための家具。では製品になった今はどんな使われ方をされると想定されていますか?
谷尻誠 なんですかねえ。あまり想定していないです。決めつけたくないんです。決まっていない、だらしない使い方がセンスがいいんじゃないかと思っています。
例えば建築家がつくった建物ってキレイにしておかないといけない空気感が漂っていますよね。建築雑誌を見ても脱ぎ散らかした服なんてどこにもない。でもいざ生活するとソファには脱いだままの服が置いてあるし、机の上には雑誌が積み上がっている。僕はそれが自然体だと思っています。”その状態でもセンスがいい”って方がいいのになとずっと思っていて、MaKeTの家具だとそれができるんじゃないかと思っています。
■だらしなくてもセンスがいいってかなり難しいですよね。
谷尻誠 難しいけど、みんなだらしないじゃないですか(笑)。それをもうよしとしたいというか。常にキレイな家で生活するほど息苦しいことないなと思って。ラフな家具の方がそれを許容してくれる気がします。みんなだらしないんだからこっちの方がいいよね、みたいな思いもありますね。
「command + Z」で3回戻してリリース
■デザインし過ぎてもダメなわけですね。
谷尻誠 そうですね。例えばかっこいいグラフィックができあがったとして、すきがないと辛いので「command + Z」を3回押してちょっと元に戻したくらいでリリースしちゃうみたいな。それくらい余白が残ってる方が好きなんですよね。
■MaKeTの家具も組み立てや彩色をユーザーにゆだねて余白を残している。
谷尻誠 はい。でも絶対ヘンなものにはならないギリギリのガイドは引いてある。DIYってヘンなものができるじゃないですか。ヘンなものができて、でも自分がつくったからOK出しちゃう世界なので、最低限のデザイン性だけはちゃんと守ってます。
■さきほどプルーヴェの名前が出ましたが、MaKeTの家具は若干プルーヴェっぽい雰囲気があるなと思いました。
谷尻誠 あー、ありますあります。モノとしてすごい好きなので絶対に影響受けてるところはあると思います。その他で自然と興味を持って見ているものはジャスパー・モリソン。ブルレックもすごい好きです。なんかわかんないけど美しいっていう点で興味を持っている気がしますね。
MaKeT = Make + Market…一番大事なのは仕組み
■谷尻さんとDIYという組み合わせが面白いと感じました。
谷尻誠 世の中の情報量が増えてきて、お客さん側がすごく育ってきていると感じています。誰かが決めたものを使うのではなく、ちゃんと根っこに戻るというか「自分たちで考えて自分たちでつくる」っていうところに興味が行き始めているんじゃないかと思ってるんですよね。MaKeTの家具も、デザインしたいという人が出てきてそれが商品になる可能性もあると思います。
■谷尻さんデザインでなくてもアリ?
谷尻誠 はい。共有しあう仕組みの方が大事だと思います。ダウンロードできる設計図が増えていくとすごくいいと思いますけどね。マケットという名前も、Make(つくる)と、場としてのMarket(マーケット)の意味を込めてつけています。
CROSS BORDERS代表が谷尻さんに建築の依頼をしたのがそもそものきっかけだとか。写真に写る建築模型はその案件のもの。
■では「次はどんなプロダクトが出るんですか?」という質問はあまり意味がないですね。
谷尻誠 その質問は、世の中的にはすごい大事なことです(笑)。ちっちゃいものがあってもいいですね。木箱とか、鍋敷きとか、まな板とか。家具というよりDIYできる木工製品のキットがあった方が買いやすいかな、という話はしています。
■素材が木であることにこだわりがあるのでしょうか?
谷尻誠 図面だけダウンロードして自ら材料を仕入れてもいい仕組みなので、調達しやすさは木が一番だな、くらいの感じです。他の素材は調達のハードルが高い。
本当は誰しもみんな自分でつくりたいはず
谷尻誠 DIYは材料調達が一番面倒なんですよ。”自分でつくること”って、実はみんなやりたいはずなんです。材料があれば時間を見つけてつくろうってなるんです。
僕自身もやり始めるまではすごい抵抗があります。でもやり始めるとやってよかったな、って思う。なんかお風呂みたいな感じですよね(笑)。面倒で明日の朝にしようかなって思うんですけど、入ったら「いやー、さっぱりした! 絶対入った方がよかった!」って思うじゃないですか。なんかそういう感じというか。
だから、やっちゃえばなんてことないんですよね。やるまでのハードルをどう下げるかってとこだと思います。MaKeTでそのハードルを下げることができるといいなと思っています。
建築家。建築設計事務所 suppose design office代表。1974年広島県生まれ。1994年穴吹デザイン専門学校卒業後、設計事務所勤務を経て、2000年suppose design office設立。広島と東京を拠点に、住宅設計、商業空間デザイン、ランドスケープデザイン、プロダクトデザイン、アートインスタレーションなど幅広く国内外で活躍。「考え方を設計する」というスタイルで新しさを提案し続けている。
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